カラーシャの谷・晶子便り

パキスタン北西辺境州の谷に住むカラーシャ族と暮らすわだ晶子の現地報告。

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高速バスの旅

 私ちゅうのはつくづく、旅、移動、放浪が好きなんだなと思う。12月始めにルンブール谷を出て、チトラール→ペシャワール→ラホール→イスラマバード→ペシャワール→ドバイ→関西空港経由で東京→佐賀→東京→佐賀と2ヶ月も経たないうちに、けっこうな距離を移動している。忙しいキャリアウーマンとか売れっ子芸能人ならともかく、私は辺境の谷に住む地味なコミュニティー活動家なんだからね。「よくやるよ」と自分でも思うが、嫌いでないからいいんでないすか。
 日本の活動拠点である東京から、高齢になった両親の住む故郷の佐賀に行くときの交通機関はだいたい夜行高速バスだ。「航空券も安くなっている今、わざわざ疲れる夜行バスに乗らなくても」と言われたりするが、パキスタンのペシャワールからチトラールまで走るボロ乗り合いハイエースに乗っていた身からすれば、日本の高速バスは天国の乗り物と言っても過言ではない。
 パキスタンの乗り合いハイエースは、乗客は助手席に2人、その後方に3列の席があり、各列に4人ずつ詰め込まれる。運転席のすぐ後の席には乗客4人に加えて、運転助手が後向きで無理矢理に座るからその列は5人になる。だから運転手も加えればハイエースに乗る人数は全部で16人となる。いや、たいてい乗客の中には家族連れがおり、ブルカを被って顔を隠している奥さんがブルカの中に赤ん坊を抱き、その脇に幼児が1人、2人いたりするもんだから、総人数は20人ぐらいになってしまう。
 これだけの人数だから身動きできないのは当たり前(言っておくが、北西辺境州の人たちは大柄で、かさは日本人の1,4倍ぐらいある)。乗ってるハイエースは、日本で20年前に廃車になって、「田中工務店」とか「あいうえ幼稚園」などボディにネーミングされていたりする中古車。もちろん車内にエアコンはない。走る道路は、ペシャワールから5時間ぐらいは舗装されているとはいうものの、一車線なので、こわいこわい。
 パキスタンのドライバーは普段のんびりしているくせに、ハンドルをにぎると自分の車がどういうものであるかを全く忘れてしまって突然レーサーに豹変するのだ。とにかく前に走っている車は何が何でも追い抜かねば気がすまない。その追い抜き方が、前の車にぎりぎり50センチぐらいにくっついてしばらく走ったかと思うと、カクンとハンドルを右に振ってパーと追い抜こうとする。追い越す車が追い越しをさせてくれない場合や、すぐ前に対向車が向かってきている時の恐怖は筆に尽くせない。もう神に祈るのみ。舗装されていない道路に入ると、ガタガタ、ガックン揺れまくる。いつも窓側に座る私の頭の横っちょ部分もガタガタたん瘤だらけになる。
 一番困るのはお手洗い。だいたいペシャワールあたりは「女は男の所有物」と思い込んでいるパターン人の世界、女性は一人旅をしないという前提の男の世界だから、女性のために何も考慮されていない。13~14時間の走行中に、食事のために大衆食堂に止まるときのみ女性は用が足せるのだが、ラワリ峠の食堂に止まるときはあそこにはトイレがなく、食堂の裏は絶壁、前は谷川。男たちはその辺にしゃがんでやれるけど、女性の場合は人目につかない場所を探すのに大変苦労した。(今は有料便所ができた。)
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写真:ラワリ峠からチトラール地方へ入るつづれ織りの道路
 日本の長距離高速夜行バスはまずトイレがついているのがよろしい。めったに使うことはないが、いつでもトイレに行けるという安心感があるのとないのではエラい違いだ。座席は3列で独立していて、リクライニングはかなりの角度後に倒れる。寝るときは前後左右カーテンを引いてもらえるので全く一人の世界になれる。出発は夜だが、乗るとビデオ映画が始まる。先日、福岡から東京までのバスでは「ドリーム・ガールズ」がかかり、これは見たい映画だったので、とても満足した気分になった。でも普通は「釣りバカ日誌」「寅さんシリーズ」みたいな映画が多いけど。
 今回新宿から乗ったバスは空いていたので、さらにラクチンだったが、斜め後の席にアジア系の若い男性がいたのが気になった。走行中の携帯電話使用は禁じられているのに、さかんにどこかに電話している。「カーナ カヤ?(ごはん食べた)」という私も知っているウルドゥー語が出てきたので、パキスタンのどこか田舎の人かとも思ったがちょっと顔が違う感じだ。寝る時間になってカーテンが引かれた後も、バリバリとビニール袋から何か食べ物をつまんで食べている音がうるさい。そのうち、「ゲーーェ」と大きいゲップが2回聞こえた。ゲップはインド亜大陸ではごちそうさまの印で当たり前のことだが、日本のバスの中ではいただけないですな。
 翌朝、山口県を走っている頃、このアジア人は待機中の運転手さんに「テンジン、テンジン」とさかんにきいている。インド系にしてはあまり日本語がうまくない。そのうち私の方に、「テンジン」ときいてきたので、「天神はもうすぐだけど、あなたはどこ行きたいのですか?」と聞き返したら鹿児島だという。彼はネパール人で鹿児島市のインド料理店で働くそうだ。2年前東京で働いていたが一度国に帰り、1週間前に来たそうだ。バスを降りて、鹿児島行きの切符売り場まで案内して「頑張ってね」と別れたが、「日本の乗り物の中では、携帯電話は使っちゃだめですよ。あなたがやっちゃうと、ネパールの人はマナーのない人だと思われて、悪い印象になるから気を付けて」と一言、おせっかいおばさん的に釘を刺すのも忘れなかった。
 日本での画一的に整った移動も、長距離バスは、ま、飛行機に乗るよりもいろんなことが起こります。なお、おととしに人工股関節の置換手術をしてからは、おしゃがみトイレが無理になり、ペシャワール~チトラール間のスリルとハプニングいっぱいの乗り合いハイエースの移動はできなくなった。今は飛行機を使っていますのでご心配なく。

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